光周性花成誘導機構の解析

サガオにおける光周性花成誘導機構の解明および花成誘導物質の探索

日長により制御される花成を光周性花成誘導といい、この光周性花成誘導は、植物が季節に応じて花を咲かせるために重要な花成制御機構のひとつである。光周性花成誘導においては、花成誘導物質(フロリゲン)が、葉で生産され、茎頂に移動し、花成を誘導することが示唆されてきた。近年、シロイヌナズナを用いた研究から、花成経路統合遺伝子であるFTの産物(mRNAあるいはタンパク質)がフロリゲンではないかと考えられている。
シロイヌナズナをはじめ多くの植物は、花成誘導に数サイクルの光周期を必要とする。一方、絶対的短日植物であるアサガオは、たった一回の短日処理で花成が誘導される。このことから、アサガオは、花成誘導物質の研究に非常に有用な植物と考えられ、多くの研究がなされてきた。しかし、一回の短日処理による花成誘導の分子生物学的メカニズムは明らかになっていない。我々は、子葉および茎頂で花成誘導特異的に発現するPnFT LEAF-TYPE (PnFTL)
およびPnFT APEX-TYPE (PnFTA)を単離し、この問題の解明を目指している。

アサガオにおける花成及び概日時計関連遺伝子の単離と光周性花成誘導との関連調査

短日性花成誘導のモデル植物として優れた特徴を持つアサガオ(品種ムラサキ)から品種TKSのEST情報に基づき光周期の感受から花成誘起に至る光周性花成誘導機構に関与する遺伝子群(ELF3, ELF4, CCA1, TOC1, PRRs, CDFs, LUX, ZTL, FKF1, GI, CO, FT, SOC1)の相同遺伝子の全長cDNAクローンを単離した。品種ムラサキは播種後7日目の芽生えの段階でも一回の短日処理で花成が誘導できる事から、様々な光周期における各遺伝子の発現タイミングをRT-PCR法により比較し、光周性花成誘導との関連を検討している。また、1回の短日処理におけるGT-CO-FT経路の保存性の有無について調査し、シロイヌナズナやイネなどで提唱されているモデルとの相違を検討している。また、花成誘導能力の異なる品種や野生系統(キダチ、テンダン、ネパール、アフリカ)を用いた比較解析を行い、アサガオの光周性花成誘導における各因子の重要性を検討している。

アサガオにおけるAtC401遺伝子の発現制御機構の解析

環境の周期的な変化に伴って、生物はさまざまな時間的な周期活動を行い、年周期、月周期、日周期などのさまざまな階層のリズムが存在する。特に、日周期に適応した生物の約24時間を周期とする内生リズムはサーカディアンリズム(概日リズム)と呼ばれている。サーカディアンリズムは内生の振動子によって制御されており、ショウジョウバエ、ほ乳類、シアノバクテリアばかりでなく、高等植物でも、その内生振動子の中心を担う分子メカニズムが明らかにされつつある。また、高等植物の光周性花成誘導現象は古くからサーカディアンリズムとの密接な関係が認められている。光周性花成誘導では、外環境の光周期を受容し、内生の概日時計による暗期の長さの計測と時計制御遺伝子の発現調節を経て、最終的に花成が引き起こされると考えられている。光周性花成誘導研究のモデル植物であるアサガオを用いた研究から、花成誘導暗期中に特異的に発現が上昇する暗期増加型のサーカディアンリズム発現を示すPnC401が単離された。また、遺伝学的解析に適した長日植物シロイヌナズナを用いた研究から、PnC401のホモログであるAtC401が単離された。AtC401も暗期増加型のサーカディアンリズム発現を示す。また、AtC401のプロモーター配列断片(d3)にホタルの発光タンパク質ルシフェラーゼ(luc+)遺伝子を接続したキメラ遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナ(d3::luc+)においても、本葉および子葉において強い発光を示し、その発光量もAtC401同様、暗期増加型のサーカディアンリズムを示すことが認められた。さらに、AtC401 プロモーターの解析より、AtC401の発現は、真核生物のRNAポリメラーゼII型基本転写において最重要シス因子と考えられているTATAボックスを必要としない転写制御機構によって制御されていることが強く示唆された。植物においては、プロモーター領域にTATAボックスをもたないTATA-less遺伝子が約15%程度存在することが知られているが、サーカディアンリズム発現を行うTATA-lessプロモーターに関する報告はこれまでになく、植物界において珍しいプロモーター構造であると言える。そこで本研究では、AtC401プロモーターのシス因子、トランス因子の解析を行い、時計制御遺伝子AtC401の発現制御機構を解明することを目的としている。AtC401が、植物における時計の中心振動体の一部であると考えられているLHYCCA1の制御下にあるか否かを検証するため、LHYCCA1が欠損した植物体(lhy cca1)とd3::luc+を交配し、lhy cca1 d3::luc+, lhy d3::luc+, cca1 d3::luc+の作出に成功した。これらの植物体の芽生えにおける発光リズムを測定したところ、他の出力系によって測定された結果と同様、lhy d3::luc+、cca1 d3::luc+の発光リズムは野生型(WT)のd3::luc+と比較して短周期となる傾向が観察され、lhy cca1 d3::luc+の発光リズムは無周期となることが観察された。以上のことより、AtC401LHYCCA1の制御下にあることが明らかとなった。また、先行研究により、AtC401のコアプロモーターは転写開始点より-13~+73 bpの領域である事が判明している。このコアプロモーター中で、概日リズムの制御に関わっていると考えられるシス配列として、GATA配列が4つ並んだ配列、あるいは、CCA1b様配列が3つ並んだ配列があることが分かった。そこで、これらのGATA配列、CCA1b様配列のいずれかがサーカディアン発現制御に重要であると考え、以下の実験を行った。まず、発光リズムをより明確に観察することができるようにコアプロモーター断片をタンデムに2つ並べた配列にルシフェラーゼ遺伝子を接続したキメラ遺伝子(d5::luc+)を作成した。次に、d5::luc+中のGATA配列に変異を導入したキメラ遺伝子(ΔG5::luc+)、CCA1b様配列に変異を導入したキメラ遺伝子(ΔA5::luc+)をそれぞれ作成した。そして、これらのキメラ遺伝子をそれぞれ野生型植物体に形質転換し、その形質転換体における発光リズムを観察した。その結果、コントロールとなるd5::luc+では、d3::luc+と同様、暗期増加型のサーカディアンリズム発光が観察された。ΔG5::luc+は、発光量がd5::luc+の約1/10程度と弱かったが、サーカディアンリズム発光が観察され、ΔA5::luc+は、発光量に関してはd5::luc+と同程度であったが、アリズミックな発光が観察された。以上のことより、GATA配列およびこの配列に結合するトランス因子はサーカディアンリズム制御とは関係のない、基本的な転写量の制御に関わっているのではないかと考えられる。また、CCA1b様配列およびこの配列に結合するトランス因子がサーカディアンリズム制御に関わっているのではないかと予想される。

花成誘起のメカニズムに関する研

植物は温度や日長などの環境要因の変化を感じ取りその形態を栄養成長相から生殖成長相へと変化させる。この移行は花成と呼ばれ、特に茎頂での反応を花成誘起という。アサガオは一回の短日処理によって花成が誘導されることから、花成における形態学的変化の経時的な観察、またそれに伴う遺伝子の変化を時空間的に追うことができ、花成誘起のメカニズムを解明する上で最適であると考えられる。またモデル植物であるシロイヌナズナにおいては花芽の形成に関わる遺伝子としてLEAFYTERMINAL FLOWER1があることがわかっている。本研究では、アサガオのLEAFYTERMINAL FLOWER1ホモログを用い、茎頂における栄養成長から生殖成長への転換時の分子生物学的・形態学的な変化を解析し、花成誘起のメカニズムの解明を目指している。

▲ページ上部に戻る